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知識創造研究室 by CRM(xRM)

【連載:EMOROCO CRM Lite導入コンサルティングの進め方】第4回 — 「現場が使い続ける体制を作る」導入研修・定着支援

こんにちは、CRMエバンジェリストの松原です。

第3回で「技術的に正しく動くCRM」が完成しました。

しかし、ここが最も重要な分岐点です。

「正しく動くCRM」と「現場が使い続けるCRM」の間には、大きな溝があります。

その溝を越えるのが、第4回で解説する「研修と定着支援」です。アーカス・ジャパンが導入支援で最もエネルギーをかけるのはこのフェーズです。
なぜなら、定着が成否のすべてを決めるからです。


研修の設計哲学——「教える」ではなく「体験させる」

多くのCRM研修が失敗する理由は「操作方法を教えること」に終始するからです。

「ここをクリックして、このフィールドに入力して、保存ボタンを押す」——このような操作研修を受けた後、担当者の多くは「使い方はわかった。でも入力する理由がわからない」という状態になります。

アーカス・ジャパンの研修設計の核心は**「入力した直後に自分が助かる体験」を研修中に届けること**です。

【研修の目的の定義(アーカス・ジャパン版)】

一般的な研修の目的:
  「EMOROCO CRM Liteの操作方法を習得する」

アーカス・ジャパンの研修の目的:
  「入力すると自分が助かる体験を、研修中に少なくとも
   1回体験し、『これは使える』という確信を持って研修を終える」

この目的の差が、研修後の定着率を決定的に変えます。


研修の構成——3つのセッション

研修は以下の3つのセッションで構成します。

【研修全体のスケジュール】

セッション①「キックオフ(経営者・全員対象)」:30分
  目的:「何のためのCRMか」を全員で確認する
  実施者:経営者(コンサルタントがサポート)

セッション②「操作研修(全員対象)」:60〜90分
  目的:「入力すると助かる体験」を届ける
  実施者:コンサルタント主導

セッション③「CRMドクター育成セッション(CRMドクター対象)」:60分
  目的:CRMドクターが自律的に運用できる状態にする
  実施者:コンサルタント主導

セッション①「キックオフ」——経営者が最初に語る30分

研修の最初の30分は、コンサルタントが話すのではなく経営者が語ります。

【キックオフセッションのアジェンダ(30分)】

10分:「なぜCRMを入れるのか」を経営者が語る

  コンサルタントがキックオフ前に経営者に確認する問い:
  「今日、皆さんにどんなメッセージを届けたいですか?」
  「CRMを入れることで、皆さんにどうなってほしいですか?」

  経営者が語るべき核心:
  ・「管理するためではない。皆さんが楽になるために入れる」
  ・「入力すると自分が助かる設計にした」
  ・「このCRMを使って、○○な状態を目指したい」

  NG(コンサルタントが事前に経営者に伝える):
  × 「ちゃんと入力してください」というプレッシャーのメッセージ
  × 機能の説明や数字の話(この場ではない)
  × 「とりあえず入れてみよう」という腰の引けた表現

10分:「今日の研修で体験してほしいこと」をコンサルタントが説明
  「今日は操作を覚えることより、
   自分の顧客の感情温度を1件更新してもらい、
   その直後にダッシュボードが変わる様子を
   体験してもらうことが目標です」

10分:「習慣スタックの宣言」
  全員が「自分がいつ入力するか」を具体的に宣言する。
  「接触後、車のエンジンをかける前にスマホから」
  「電話を切った直後にタブレットで」
  → コミットメントと一貫性の原理(チャルディーニ)を活用

セッション②「操作研修」——「入力すると助かる体験」を届ける

操作研修は「教える→やってみる→体験して気づく」の3ステップで設計します。

パート1:全員が自分の顧客を1件入力する(20分)

【パート1の手順】

Step 1:自分の担当顧客リストを開く
  「自分の担当顧客が正しく表示されているか確認してください」

Step 2:最も「今気になっている顧客」を1社選ぶ
  「今週フォローしようと思っていた顧客、
   または最近様子が気になっている顧客を1社選んでください」

Step 3:感情温度・最終接触日・次のアクションの3項目を入力
  「この3項目だけを、今すぐ入力してみてください。
   30秒でできます」

Step 4:保存してダッシュボードを開く
  「ダッシュボードを開いてみてください。
   いま入力した内容が反映されていますか?」

研修中の観察ポイント(コンサルタント):
  入力に迷っている人はいないか?
  → 「このフィールドは何を入力すればいいですか?」
    という質問が出たら、設計に問題がある可能性
  スマホから入力できているか?
  → できていなければ操作サポートをその場で実施

パート2:感情温度を変えてワークフローを体験する(15分)

【パート2の手順】

Step 1:先ほど入力した顧客の感情温度を「クール」に変更する
  「テストとして、感情温度をクールに変えてみましょう」

Step 2:翌日のタスクを確認する
  「タスクリストを開いてください。
   明日の日付でタスクが自動で作られましたね。
   これが『ワークフロー』です」

Step 3:体験の言語化
  コンサルタントが問いかける:
  「このタスクが自動で作られることで、
   何かが変わると感じますか?」

  参加者に気づきを語ってもらう。
  典型的な反応:
  「フォロー漏れがなくなりそう」
  「これがあれば、気づいたときには手遅れ
   ということがなくなる」
  「入力すると自動でリマインドしてくれるのか」

  → この「気づき」の瞬間が、定着の種になる。
    コンサルタントはこの反応を引き出すために
    パート2を設計している。

パート3:「次の訪問前の使い方」をデモする(20分)

【パート3の手順】

コンサルタントがデモシナリオを見せる:

「明日、A社の田中社長を訪問する前に、
 こうCRMを使います。
 まず田中社長のレコードを開きます。
 前回のナラティブメモに
 『息子さんへの引き継ぎの話をされていた』
 と記録してあります。
 前回の感情温度はウォームでした。
 次のアクションとして
 『引き継ぎの進捗を聞く』と書いてあります。
 これを読んでから、今日の訪問に行きます。
 
 訪問が終わった後、車の中で30秒だけ:
 感情温度を更新して、今日話した一行メモを入れます。
 それだけです」

→ このデモで「CRMを使うことが訪問の質を上げる」
  という体験が具体的にイメージできる。

パート4:全員が「自分の次の訪問前のCRMの使い方」を声に出す(15分)

【パート4:ペアワーク(隣の人と2分ずつ)】

「明日または来週、最初にCRMを使う場面を
 隣の人に話してください。
 『○○社を訪問する前に、前回のメモを確認して、
  訪問後に感情温度を更新する』というように」

→ 声に出すことでコミットメントが強化される(再確認)
→ 「うまくイメージできない」人を発見し、
  個別にサポートするための機会でもある

セッション③「CRMドクター育成」——自律した運用の担い手を育てる

操作研修の後、CRMドクター候補者との個別セッションを行います。

【CRMドクター育成セッションのアジェンダ(60分)】

20分:CRMドクターの役割の確認
  ・週次・月次の健診スケジュールをカレンダーに入れる
  ・「入力率の確認方法」を実際にやってみる
  ・「フィールドの追加・変更方法」をノーコードで体験する
  
  → 「自分でCRMを育てられる」という自信を持たせることが目標

20分:最初の30日間の「健診スケジュール」を設計する
  【週次健診(月曜・15分)の確認事項を決める】
  □ 赤アラートリストの確認と担当者への声がけ
  □ 入力率の確認(接触件数に対する記録の割合)
  □ 「今週最も良い入力」を1件取り上げて共有する

  【月次健診(第1月曜・45分)の確認事項を決める】
  □ 4つのバイタルサインの測定(入力率・活用率・精度・適合率)
  □ 不使用フィールドの棚卸し
  □ 現場からのフィールド追加要望のヒアリング

20分:「困ったときの対処法」と「アーカスジャパンへの相談窓口」
  ・CRMドクターが自分では解決できない問題の判断基準
  ・アーカスジャパンへの相談方法(Slack・メール・月次MTG)
  ・よくあるトラブルとその解決方法のFAQを渡す

研修後の「72時間フォロー」

研修直後から72時間が、定着の最重要期間です。

【研修後72時間のフォロー設計】

研修翌日(Day +1):
  コンサルタントからCRMドクターへのメッセージ
  「昨日の研修、お疲れ様でした。
   今日、担当者から入力してみた感想は届いていますか?
   もし『ここがわからない』という声があれば教えてください」

研修2日後(Day +2):
  CRMドクターが入力率を確認
  「昨日・一昨日の接触のうち、
   CRMに入力されたものは何件か?」
  → 50%未満なら個別のサポートが必要

研修3日後(Day +3):
  コンサルタントがCRMドクターと15分のオンライン確認
  「問題はないか・現場の声は何か・設計の修正が必要か」
  を確認。必要なら即座に設計を微修正する。

定着を阻む「3つの壁」とその対処法

研修後に多くの組織で発生する「定着の壁」と、その対処法を整理します。

【壁①「忙しくて入力を忘れる」】

症状:研修後1週間は入力率が高いが、
     2週目から急落する。

原因:「接触後に入力する」というトリガーが
     習慣として定着していない。

対処法:
  CRMドクターが月曜の週次健診で
  「今週の接触で入力できたものはいくつ?」
  と全員に声をかける。
  「入力率が見えている」状態を作るだけで
  自然に入力率が上がる。

【壁②「何を書けばいいかわからない」】

症状:感情温度と最終接触日は入れるが、
     ナラティブメモが全員空白のまま。

原因:「何を書けばいいか」の基準が共有されていない。

対処法:
  週次健診の冒頭で「今週最も良いナラティブメモ」を
  1件取り上げて読み上げる。
  「このくらいの内容が理想」という基準を
  毎週共有することで、2〜3週間で質が上がる。

【壁③「入力したが何も変わらない気がする」】

症状:入力は続いているが「意味がない」と
     感じる担当者が出てくる。

原因:「入力したことが実際にどう役立ったか」が
     見えていない。

対処法:
  CRMドクターが「CRMを使って良かった体験」を
  積極的に収集してチームに共有する。
  「感情温度クールのアラートが来て、
   フォローしたら受注につながった」
  「ナラティブメモを読んで訪問したら、
   お客様に『よく覚えていてくれた』と言われた」
  → この体験の共有が、入力の動機を更新し続ける。

まとめ——定着支援フェーズのチェックリスト

研修前:
□ 経営者が「なぜCRMを入れるか」を自分の言葉で語れるか
□ 「入力すると助かる体験」を研修中に届けるシナリオが準備できているか
□ CRMドクター候補者が確定しているか

研修当日:
□ キックオフで経営者が「管理のためではない」と明言したか
□ 全員が「自分の習慣スタック」を声に出して宣言したか
□ 感情温度を入力してワークフローが動く体験を全員が経験したか
□ CRMドクター育成セッションで月次健診スケジュールを設定したか

研修後72時間:
□ 翌日にCRMドクターへのフォローメッセージを送ったか
□ 2日後に入力率を確認したか
□ 3日後にコンサルタントとCRMドクターの確認MTGを実施したか

定着維持(週次):
□ 週次健診で「今週最も良い入力」を取り上げているか
□ CRMを使って良かった体験を積極的に収集・共有しているか

次回(第5回)では、定着したCRMをSoI(洞察のシステム)として機能させる——ダッシュボード活用とSoI-PDCAの本格稼働を解説します。
EMOROCO CRM Lite 製品ページ


前回:[【第3回】構築・データ移行——「実際に動くCRMを作る」]

次回:[【第5回】SoI-PDCA・ダッシュボード活用——「CRMを洞察のシステムとして機能させる」]

関連記事:[CRM定着の行動心理学——「入力させる」のではなく「入力したくなる」設計の科学]

関連記事:[CRMドクター(CRM診断士)とは何か——CRM4.0時代にCRMを定着させる専門家の役割]

この記事を書いた人
松原 晋啓

詳細プロフィールはこちら
アクセンチュア等でSE、アーキテクト、コンサルタント、インフラジスティックスでエバンジェリスト(Microsoft MVP for Dynamics CRM(現 Microsoft MVP for Business Solutions))、マイクロソフトでソリューションスペシャリスト(Dynamics CRM製品担当)を経て、現在はCRMを専門に扱うサービスチームを率いて大小様々の企業のCRM導入や事業立上げを支援、その傍らでCRMエバンジェリストとしてイベントや記事寄稿を通じて"真の"CRMの理念の普及に努めている。
アクセンチュアでCRMを学び、マイクロソフトでCRM2.0(プラットフォームドCRM)を世界的に提唱したCRMの正統後継者にして現役最長のCRM専門家(CRM診断士/CRMドクター)
その後もCRM3.0(パーソナライズドCRM)、CRM4.0(クリエイティブCRM)を提唱するCRMの第一人者としてインタビューを受けたり、国内外で多くの賞を受賞している。
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