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知識創造研究室 by CRM(xRM)

【連載:EMOROCO CRM Lite導入コンサルティングの進め方】第2回 — 「どんなCRMを作るか」をクライアントと共に設計する

こんにちは、CRMエバンジェリストの松原です。

第1回の初回ヒアリングと現状診断を経て、「何のためにCRMを入れるか」が明確になりました。

第2回では、そのヒアリング結果をもとに「どんなCRMを設計するか」——具体的にはエンティティ設計・フィールド設計・ワークフロー設計・ダッシュボード設計という4つの設計セッションを解説します。

設計セッションはクライアントの担当者(CRMドクター候補者・営業マネージャー・経営者)とアーカス・ジャパンのコンサルタントが共同で行います。
「コンサルタントが設計してクライアントに渡す」ではなく、「クライアント自身がCRMを設計する体験をサポートする」——これがアーカス・ジャパンの導入支援の根本的な姿勢です。


なぜ「クライアントが設計する」のか

「コンサルタントが設計したCRM」と「クライアント自身が設計したCRM」では、定着率が根本的に異なります。

「自分たちで作った」という当事者意識が、「自分たちで使い続ける」という行動を生みます。これはコミットメントと一貫性の原理(チャルディーニ)——自分が決めたことと一致した行動を取ろうとする心理——の実践でもあります。

アーカス・ジャパンのコンサルタントの役割は「設計する人」ではなく「設計を引き出す人」です。


設計セッション①「エンティティ設計」——何を管理するかを決める

最初の設計は「エンティティ(管理する対象の種類)」の決定です。

【エンティティ設計のワークショップ手順(30分)】

Step 1:「管理したいもの」を付箋に書き出す(10分)
  参加者全員が「管理したいこと・記録したいこと」を
  付箋1枚に1つずつ書き出す。制限なし。
  例:「顧客企業の情報」「担当者の名刺情報」
    「商談・案件の進捗」「過去の受注履歴」
    「イベント参加者」「紹介ネットワーク」

Step 2:グルーピングと命名(10分)
  似た付箋をグループ化して「エンティティ名」をつける。
  これが「EMOROCO CRM Liteのエンティティ一覧」になる。

Step 3:優先順位を決める(10分)
  「最初の30日間に必ず使うエンティティ」を選ぶ。
  原則:最初は2〜3エンティティに絞る。

典型的なエンティティ構成(業種別):

【B2B営業・製造業・コンサル】
  必須:顧客企業(Account)・担当者(Contact)・案件(Opportunity)
  推奨:活動記録(Activity)
  将来:紹介(Referral)・見積(Quote)

【士業・診療所・個人向けサービス】
  必須:顧客(Customer/Patient)
  推奨:相談案件(Case)
  将来:紹介(Referral)・契約(Contract)

【NPO・自治体・教育機関】
  必須:支援者・組合員・在学生(Person)
  推奨:活動参加(Activity)
  将来:法人支援者(Organization)・イベント(Event)

設計セッション②「フィールド設計」——何を記録するかを決める

エンティティが決まったら、各エンティティのフィールドを設計します。

フィールド設計の核心原則:「最初は5フィールド」

【フィールド設計のゴールデンルール】

ルール①:最初の30日間は1エンティティあたり5〜8フィールドに絞る
  多すぎると誰も入力しない。
  「欲しい」という声が現場から出てから追加する。

ルール②:「選択式」を「自由記述」より優先する
  自由記述は記録の質にばらつきが出る。
  選択式は入力が速く・分析しやすく・
  ワークフローのトリガーにできる。

ルール③:「管理者が見たいフィールド」より
         「現場が入力すると助かるフィールド」を優先する
  入力者のメリットが設計の出発点。

フィールド設計ワークショップの手順:

【フィールド設計ワークショップ(60分)】

Step 1:「最低限必要な情報」を特定する(15分)
  「このフィールドがなければCRMとして機能しない」
  という必須フィールドを5個以内で選ぶ。
  
  どのエンティティにも共通する必須フィールド:
  ・名称(会社名・氏名)
  ・担当者(自社の担当)
  ・感情温度(ホット/ウォーム/クール/コールド)
  ・最終接触日
  ・次のアクション内容・期日

Step 2:「あれば助かる情報」を選ぶ(20分)
  「このフィールドがあると、次の訪問の質が上がる」
  という追加フィールドを3〜5個選ぶ。
  業種・業務によって異なる部分。

Step 3:「各フィールドの形式」を決める(25分)
  各フィールドについて以下を決定する:
  ・テキスト(一行)/テキスト(複数行)
  ・選択式(択一)/選択式(複数選択)
  ・日付 / 数値 / チェックボックス
  ・別エンティティとの紐付け(ルックアップ)

「感情温度フィールド」の判断基準の合意:

感情温度フィールドは全エンティティに共通して設定しますが、選択肢の「定義」をチームで合意することが最重要です。

【感情温度の定義合意ワーク(必須)】

コンサルタントが問いかける:
「『ホット』はどんな状態ですか?
 具体的に、どんなことが起きていたらホットと入力しますか?」

クライアントが答えた内容をそのまま定義として採用する:
  ホット:「顧客から連絡が来ている・提案を求められている」
  ウォーム:「定期的に接触できて返応が通常通り」
  クール:「返応が遅くなった・接触が途絶えがち」
  コールド:「90日以上接触なし・関係が実質停止」

→ この定義を「チームの共通言語」として
  印刷して貼り出す・チャットに投稿するなど
  全員が見える場所に保管する

設計セッション③「ワークフロー設計」——自動化する業務を決める

ワークフローは「特定の条件が満たされたとき、自動でタスクやアクションを生成する仕組み」です。

ワークフロー設計の原則:「最初の1本を確実に動かす」

【ワークフロー設計のアプローチ】

第1フェーズ(最初の30日):1〜2本に絞る
  最初から多くのワークフローを作ると
  管理が煩雑になる。
  「最も確実に助かる1本」から始める。

第2フェーズ(31〜60日):3〜5本に拡大
  最初の1本が正常に動き、
  「ワークフローが自動でタスクを作ってくれる体験」が
  チームに根付いてから拡大する。

推奨「最初の1本」(ほぼすべての業種で有効):
  トリガー:感情温度が「クール」に更新されたとき
  アクション:翌営業日にフォロータスクを自動生成
  タスク内容:「○○様 感情温度が下がっています——
              今週中に純粋な関心から接触を」

ワークフロー設計ワークショップの手順:

【ワークフロー候補の洗い出し(30分)】

Step 1:「繰り返し発生する業務」を書き出す
  例:「○日以上接触がないとフォロー漏れになる」
  例:「案件が止まったら上司に報告したい」
  例:「受注後に御礼連絡のタスクを作りたい」
  例:「誕生日・記念日の前にタスクを作りたい」

Step 2:各候補を「トリガー×アクション」で記述する
  トリガー:いつ・どんな条件が満たされたとき
  アクション:何が自動で発生するか

Step 3:「最初の30日に使う1〜2本」を選ぶ
  選定基準:
  ① 最も頻繁に「忘れていた」と感じる業務
  ② トリガー条件がシンプルで間違いなく発火する
  ③ アクション(タスク内容)が明確で現場が迷わない

設計セッション④「ダッシュボード設計」——何を毎日・毎週見るかを決める

ダッシュボードは「SoI(洞察のシステム)」としてのCRMの最前線です。「毎朝5分見れば今日やるべきことがわかる」ダッシュボードを設計します。

【ダッシュボード設計の3原則】

原則①:「見る理由がある」ビューだけを作る
  「なんとなくかっこいいダッシュボード」ではなく
  「見ると今日の行動が決まるビュー」だけを作る。

原則②:最初は「赤アラートリスト」1つから始める
  「感情温度クール以下×最終接触14日以上」
  このビュー1つを毎朝確認する習慣から始める。
  習慣が定着してから他のビューを追加する。

原則③:役割ごとにビューを設計する
  担当者向け:「今週自分がやるべきこと」
  マネージャー向け:「チームの今月着地と赤アラート」
  経営者向け:「全社の感情温度分布と着地予測」

ダッシュボード設計ワークショップの手順:

【ダッシュボード設計ワーク(20分)】

問いかけ:
「毎朝ダッシュボードを開いて、
 最初に何を確認したいですか?」

→ その答えがそのまま「最初のビュー」になる。

典型的な回答と対応するビュー設計:

「今週フォローすべき顧客が誰かを確認したい」
  → 「感情温度クール以下×最終接触14日以上」ビュー

「今月の着地(受注見込み)を確認したい」
  → 「確度A・B案件の合計金額」ビュー

「担当者ごとの活動量を確認したい」
  → 「担当者別・今月の接触件数・感情温度更新率」ビュー

設計の「優先度マトリクス」——何を先に・何を後で

4つの設計が完成したら、以下のマトリクスで「最初の30日」に実装するものを確定します。

【優先度マトリクス(重要度×緊急度)】

最初の30日に実装(Must Have):
  ・基本エンティティ(2〜3種類)の設定
  ・必須フィールド(各エンティティ5〜8項目)
  ・感情温度フィールドの判断基準の合意
  ・ワークフロー第1本目(感情温度クール→タスク)
  ・赤アラートダッシュボード(1ビュー)

31〜60日に実装(Should Have):
  ・追加フィールド(現場の声が出てから)
  ・ワークフロー2〜3本目
  ・担当者別・マネージャー向けダッシュボード

61日以降に検討(Nice to Have):
  ・他システムとの連携(ERP・会計)
  ・高度なダッシュボード分析
  ・SoI-PDCAの本格稼働

設計ドキュメントの作成と合意

設計セッションの後、以下の「設計ドキュメント」を作成してクライアントと合意します。

【設計ドキュメントの構成】

1. エンティティ一覧
   エンティティ名・用途・最初の30日に使うか否か

2. フィールド定義書(エンティティごと)
   フィールド名・形式・選択肢の定義・必須/任意・
   入力のタイミング

3. ワークフロー定義書
   ワークフロー名・トリガー条件・アクション内容・
   タスクのテキスト

4. ダッシュボード設計図
   ビュー名・表示条件・対象ユーザー・
   確認頻度(毎日/週次/月次)

5. 「最初の30日」スケジュール
   Day 1〜7:設定・環境構築
   Day 8〜14:CSVインポート・初期データ入力
   Day 15〜21:ワークフロー動作確認・全員展開
   Day 22〜30:棚卸し・改善・次のフェーズ計画

この設計ドキュメントは、クライアント・アーカスジャパン双方が「この設計でいく」と確認した合意の文書です。後の「なんか違う」「思っていたのと違う」を防ぐ最重要の資料になります。


まとめ——設計セッションのチェックリスト

設計セッション前:
□ 第1回ヒアリングの結果を全参加者が把握しているか
□ クライアントのCRMドクター候補者が参加しているか
□ 経営者と現場担当者の両方が参加しているか

設計セッション中:
□ エンティティは2〜3種類に絞れたか
□ フィールドは各エンティティ8個以内か
□ 感情温度の判断基準を全員で合意したか
□ ワークフロー第1本目が「最も助かる1本」として選べたか
□ ダッシュボードの「毎朝確認するビュー」が1つ決まったか

設計セッション後:
□ 設計ドキュメントを作成・共有したか
□ 「最初の30日」のスケジュールを確定したか
□ 第3回(構築・データ移行)の日程を確定したか

次回(第3回)では、設計ドキュメントをもとに「実際にEMOROCO CRM Liteを構築し、データを移行し、動くCRMを作る」プロセスを解説します。
EMOROCO CRM Lite 製品ページ


前回:[【第1回】「何のためにCRMを入れるのか」を決める初回ヒアリングと現状診断]

次回:[【第3回】構築・データ移行——「実際に動くCRMを作る」]

関連記事:[EMOROCO CRM Liteで「感情温度フィールド」を設計・運用する完全ガイド]

関連記事:[EMOROCO CRM Lite導入「最初の30日間」完全ロードマップ]

この記事を書いた人
松原 晋啓

詳細プロフィールはこちら
アクセンチュア等でSE、アーキテクト、コンサルタント、インフラジスティックスでエバンジェリスト(Microsoft MVP for Dynamics CRM(現 Microsoft MVP for Business Solutions))、マイクロソフトでソリューションスペシャリスト(Dynamics CRM製品担当)を経て、現在はCRMを専門に扱うサービスチームを率いて大小様々の企業のCRM導入や事業立上げを支援、その傍らでCRMエバンジェリストとしてイベントや記事寄稿を通じて"真の"CRMの理念の普及に努めている。
アクセンチュアでCRMを学び、マイクロソフトでCRM2.0(プラットフォームドCRM)を世界的に提唱したCRMの正統後継者にして現役最長のCRM専門家(CRM診断士/CRMドクター)
その後もCRM3.0(パーソナライズドCRM)、CRM4.0(クリエイティブCRM)を提唱するCRMの第一人者としてインタビューを受けたり、国内外で多くの賞を受賞している。
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