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知識創造研究室 by CRM(xRM)

スタートアップが失注ログをPMFへの地図に変えた話 — 「100回断られた」ではなく「100回学んだ」

こんにちは、CRMエバンジェリストの松原です。

「100社に話を聞きました」

投資家にそう報告したとき、最初に返ってきた問いはこれでした。

「それで、何を学びましたか」

私は答えられませんでした。話を聞いた件数はあった。でも「何を学んだか」が言語化できていなかった。商談のたびに感じた「なんとなく刺さった」「なんとなく刺さらなかった」という感覚は、私の頭の中にあるだけでした。

※本記事は業界の実態と複数社の導入パターンをもとにした仮想ストーリーです。


PMF前のスタートアップが陥る「データなき顧客開発」

私が創業したのは、中小製造業向けのSaaS(受発注管理ツール)です。
「Excelと電話で受発注している中小製造業の非効率を解消する」というビジョンで立ち上げました。

創業から6ヶ月、社員3名。毎日のように見込み顧客へのアポを取り、デモをし、提案書を送っていました。成約件数はゼロ。
正確に言えば、トライアルは数件あったものの、本契約に至ったのはゼロでした。

当時の商談記録の管理方法は、Notionにメモを書くだけでした。「A社——興味はあるが予算がない」「B社——担当者は良さそうだが上司が難色」「C社——競合他社と比較中」——こういった断片的なメモが、フォルダの中に無秩序に積み上がっていきました。

失敗した企業の38%が「市場のニーズがなかった(No Market Need)」を理由に挙げているというデータがあります。私はその38%に入るのかもしれない——そう感じ始めたのが、創業7ヶ月目のことです。


EMOROCO CRM Liteとの出会い——「失注ログをデータにする」という発想

転機はメンターからの一言でした。

「あなたの失注ログは、今どこにありますか」

Notionのフォルダを開いて見せると、メンターは首を振りました。「これは記録ではなく、メモです。記録とメモの違いは、比較できるかどうかです」

その日の夜に調べて見つけたのがEMOROCO CRM Liteでした。月額1,500円/ユーザー、初期費用0円。スタートアップの財務状況でも試せる価格です。

正直に言うと、最初は「CRMはもっと大きな会社が使うもの」だと思っていました。でも、使ってみて気づいた。PMF前のスタートアップにこそ、CRMが必要なのだと。

理由は単純です。PMF前の商談は「売上活動」ではなく「仮説検証活動」だからです。売上を最大化するのではなく「自分たちのプロダクトが誰の何を解決するのかを発見する」のがPMF前の商談の目的です。その発見を記録・比較・分析するには、構造化されたデータが必要です。Notionのメモでは、比較できません。


設計——PMF特化の7フィールド

EMOROCO CRM Liteに設定したフィールドは、通常の営業CRMとは違います。「売上を管理する」ではなく「仮説を検証する」ための設計です。

商談レコードに追加したフィールド:

フィールド名 種類 目的
課題の深刻度 選択式 なければ困る / あれば嬉しい / どちらでもない
失注理由 選択式 価格 / 機能不足 / タイミング / 競合 / 課題認識なし / 予算なし
刺さった言葉 テキスト 相手が前のめりになった瞬間の言葉をそのまま記録
刺さらなかった言葉 テキスト 相手が反応しなかった説明・フレーズ
意思決定者の関与 選択式 決裁者と直接話した / 担当者のみ / 不明
競合言及 テキスト 比較対象として名前が出た競合プロダクト・代替手段
仮説の検証結果 テキスト この商談で何を学んだか(1〜2文で必ず記録)

最後の「仮説の検証結果」フィールドが最も重要でした。商談後に「この商談で何を学んだか」を1〜2文で書く習慣が、後の発見につながります。

【設計のポイント】 「課題の深刻度」フィールドが核心です。「なければ困る」と「あれば嬉しい」は、プロダクトの価値が根本的に違います。「あれば嬉しい」が続く限り、PMFは達成できません。


導入から1ヶ月——最初の発見は「仮説の崩壊」だった

EMOROCO CRM Liteを使い始めて1ヶ月、過去の商談データを遡って入力しました。合計67件の商談を構造化したとき、最初に見えたのは「仮説の崩壊」でした。

私たちが「解決する課題」として設定していたのは「受発注の転記作業の非効率」でした。「Excelと電話でやっているのは非効率だと感じているはず」という仮説です。

ところが「課題の深刻度」を分析すると——

課題の深刻度 件数 割合
なければ困る 8件 12%
あれば嬉しい 31件 46%
どちらでもない 28件 42%

「なければ困る」と答えた会社は12%しかなかった。「あれば嬉しい」「どちらでもない」が合わせて88%。

私の仮説は「Excelが不便で困っている」でしたが、データが示したのは「Excelが不便だとは思っているが、困っているほどではない」でした。「なければ困る」と感じている8社はどんな会社かを分析すると、共通点が見えてきました。

「なければ困る」8社の共通点:

  • 発注先(サプライヤー)が5社以上いる
  • 受発注の担当者が2名以上(属人化リスクがある)
  • 月次の受注件数が50件以上

「受発注が多くて・人が複数いて・ミスのリスクが高い会社」だけが「なければ困る」と感じていた。私たちのターゲット定義が、最初から間違っていたのです。


2ヶ月目——「刺さった言葉」が教えてくれたこと

次に「刺さった言葉」フィールドを分析しました。前のめりになった瞬間に相手が使った言葉の傾向です。

最も多く出てきたキーワード:

  1. 「ミスの削減」(23件)
  2. 「担当者が辞めたときのリスク」(18件)
  3. 「取引先への報告が楽になる」(15件)
  4. 「効率化」(9件)
  5. 「コスト削減」(7件)

気づきました。「効率化」や「コスト削減」への反応は薄かった。でも「ミス」と「引き継ぎリスク」には強く反応していた。

私たちは「効率化ツール」として売っていましたが、顧客が本当に恐れているのは「ミスと引き継ぎリスク」だったのです。

逆に「刺さらなかった言葉」を見ると——「デジタル化」「DX」「クラウド」という言葉への反応がほぼゼロでした。中小製造業の経営者にとって「DX」は遠い話で、「今月の発注ミスをゼロにしたい」が現実の言葉でした。


3ヶ月目——失注ログから「ピボットの決断」

3ヶ月分のデータが蓄積されたとき、週次の「失注分析会議」(30分)を設けました。

【週次失注分析会議のアジェンダ】
① 今週の新規失注件数と失注理由の集計(5分)
② 「刺さった言葉」の新規追加と傾向確認(10分)
③ 「なければ困る」判定が出た商談の深掘り(10分)
④ 仮説の更新——来週のトーク変更点を決める(5分)

この会議でピボットの決断が生まれました。

失注ログを3ヶ月分分析すると、「なければ困る」と感じた8社から見えたパターンと、「刺さった言葉」の分析から見えたパターンが一致しました。

新しい仮説: 「受発注ミスと担当者依存リスクを同時に解消することに、切実なニーズがある」

従来の「効率化ツール」から「ミスゼロ・引き継ぎリスクゼロの受発注管理」へ——訴求軸を変えました。営業トークも、資料も、LP(ランディングページ)も、全部書き直しました。

訴求軸変更後30日間の変化: 「なければ困る」判定率:12% → 41% 商談→トライアル転換率:8% → 23%


4ヶ月目——投資家への「学習の報告」

シードラウンドの投資家面談で、改めて「何を学びましたか」と問われました。

今度は答えられました。

「167件の商談ログから、私たちのプロダクトが『なければ困る』と感じる顧客の共通点を特定しました。発注先5社以上・担当者2名以上・月次受注50件以上という3条件に当てはまる会社では、課題の深刻度が平均3.2倍高い。この顧客像に集中することで、トライアル転換率が8%から23%に改善しました」

投資家の反応が変わりました。「件数ではなく学習の質が見える」と言われました。

EMOROCO CRM Liteのダッシュボードをそのままスクリーンに映して説明しました。失注理由の分布・課題の深刻度の変化・刺さった言葉のトレンド——これが「データに基づいたPMFへの進捗」として伝わりました。


6ヶ月目——PMF達成の手前で見えてきたもの

導入から6ヶ月後、累計214件の商談ログが蓄積されました。

変化の数字:

指標 導入前 6ヶ月後
商談→トライアル転換率 8% 31%
トライアル→本契約転換率 0% 47%
累計本契約件数 0件 11件
「なければ困る」判定率 12% 44%
週次失注分析にかかる時間 ゼロ(やっていなかった) 週30分

PMF達成の定義は「40%以上の顧客が『このプロダクトがなくなったら非常に困る』と答える状態」とも言われます。私たちはまだそこには届いていませんが、方向性が明確になりました。

最も大きな変化は「失注が怖くなくなった」ことです。

以前は失注するたびに「また駄目だった」という感覚がありました。今は「また学んだ」という感覚に変わっています。失注ログがデータになっていれば、失注は「コスト」ではなく「学習への投資」です。


失敗したこと——正直な3つの反省

反省①:フィールドを作りすぎた最初の1週間

最初に15個のフィールドを作りました。「全部記録したい」という欲張りです。商談後の入力に10分かかり、入力が続かなくなりました。7フィールドに絞り直してから定着しました。「少ないフィールドを全件入力する」の方が「多いフィールドの半分しか入力できない」より100倍価値があります。

反省②:感情温度の使い方を間違えた

最初、感情温度を「商談の手応え」として使っていました。手応えがあった商談はホット(赤)、なかった商談はコールド(水色)という使い方です。でも「手応えがある」と「課題の深刻度が高い」は別物でした。感情温度は「相手の興味の温度感」ではなく「プロダクトへの課題感の温度感」として再定義してから、データの質が上がりました。

反省③:分析を「やること」ではなく「後回し」にした時期があった

導入2ヶ月目、商談件数を増やすことに集中していた時期に「分析は後で」となりました。その1ヶ月間のデータは、後から見ると質が著しく低い。「分析のためのデータ入力」を商談直後の習慣にしない限り、データは劣化します。


まとめ——「失注ログ」は最も安いリサーチ費用

スタートアップにとって、PMFは生存の条件です。そしてPMFへの最短経路は「顧客の声を構造化して学ぶ」ことです。

調査会社に頼むと1件あたり数万円かかる顧客インタビューが、毎日の商談でゼロコストで積み上がっていく。ただし、それが「メモ」として散在していたままでは宝の山です。

EMOROCO CRM Liteで失注ログを構造化することで、私たちは「何がPMFを阻んでいるか」を数字で見られるようになりました。「なければ困る」が12%から44%に上がった事実は、3万円の月額費用(当時5ユーザー)では買えない学習資産です。

「100社に断られた」ではなく「100社から学んだ」——この違いが、PMFへの到達速度を決めます。

【今日からできる最初の1ステップ】 まず商談レコードに「課題の深刻度(なければ困る/あれば嬉しい/どちらでもない)」と「仮説の検証結果(1〜2文)」の2フィールドだけ追加してください。この2つが全商談に記録されるだけで、3ヶ月後に「自分たちの仮説のどこが正しくてどこが間違っていたか」がデータで見えるようになります。

30日間の無料トライアルでお試しいただけます。
デジタル化・AI導入補助金2026 対応ツール番号:DL07-0022934
製品情報:https://www.emoroco.com/


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この記事を書いた人
松原 晋啓

詳細プロフィールはこちら
アクセンチュア等でSE、アーキテクト、コンサルタント、インフラジスティックスでエバンジェリスト(Microsoft MVP for Dynamics CRM(現 Microsoft MVP for Business Solutions))、マイクロソフトでソリューションスペシャリスト(Dynamics CRM製品担当)を経て、現在はCRMを専門に扱うサービスチームを率いて大小様々の企業のCRM導入や事業立上げを支援、その傍らでCRMエバンジェリストとしてイベントや記事寄稿を通じて"真の"CRMの理念の普及に努めている。
アクセンチュアでCRMを学び、マイクロソフトでCRM2.0(プラットフォームドCRM)を世界的に提唱したCRMの正統後継者にして現役最長のCRM専門家(CRM診断士/CRMドクター)
その後もCRM3.0(パーソナライズドCRM)、CRM4.0(クリエイティブCRM)を提唱するCRMの第一人者としてインタビューを受けたり、国内外で多くの賞を受賞している。
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