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知識創造研究室 by CRM(xRM)

エンタープライズCRMの設計思想を、なぜ中小企業向けに展開するのか — EMOROCO CRM Liteの戦略的な存在意義

こんにちは、CRMエバンジェリストの松原です。

「なぜ大企業向けのCRMの思想を、中小企業に届けようとするのか」

このことを聞かれることがあります。

正直に言えば、この問いは「なぜ」ではなく「だからこそ」だと私は思っています。

エンタープライズの設計思想を知っているからこそ、それを中小企業に届けたい。大企業のCRMと中小企業のCRMの「差」を誰より知っているからこそ、その差を埋めることに意味があると信じている。

今日は、EMOROCO CRM Liteという製品が生まれた戦略的な理由を、私自身の言葉で語ります。


「大企業だけがCRM4.0の恩恵を受ける」という不条理

私はこれまで、日産自動車・マツダ・本田技研工業・三菱重工業・日本郵便・中央官庁といった大企業のCRM導入を支援してきました。

大企業のCRMプロジェクトには、豊富な予算・専任のIT部門・外部コンサルタント・SIerが動きます。Dynamics 365のような高機能なCRMを数ヶ月から数年かけて構築し、AIとBIを組み合わせてSoI(洞察のシステム)として機能させる。そこに数千万円から数億円の投資が行われます。

そのプロジェクトの中で、私はずっと一つのことを考えていました。

「これと同じことを、中小企業はできていない」

中小企業には数千万円の予算はない。専任のIT部門もない。SIerに頼む余裕もない。しかし顧客との関係の重要性は、大企業も中小企業も変わらない。いや、むしろ中小企業こそ、一人の顧客との関係の深さが生死を分けることがある。

エンタープライズのプロジェクトで蓄積してきた知見——SoIの設計・感情温度の可視化・ナラティブの蓄積・ワークフロー自動化——これらを「月1,500円で使えるプロダクト」に落とし込めたら、中小企業の顧客管理は根本から変わる。

それがEMOROCO CRM Liteを作った動機です。


「逆張り」の設計哲学——機能を削ぐのではなく思想を継承する

一般的に、中小企業向けのSaaSプロダクトは「シンプルに・軽く・安く」を目指します。機能を絞り、UIをシンプルにし、価格を下げる。これはビジネスとして正しい判断です。

しかし私たちは、そのアプローチをとりませんでした。

私が考えたのは逆でした。「大企業向けの設計思想をそのまま持ち込んで、使い方だけをシンプルにする」——これがEMOROCO CRM Liteの設計哲学です。

なぜか。大企業向けのCRMには、長年の試行錯誤と大量の失敗から生まれた設計の知恵があります。「なぜCRMは定着しないのか」「なぜデータが蓄積されないのか」「なぜ担当者変更で関係がリセットされるのか」——これらの問いに対する答えが、エンタープライズのCRM設計の中に凝縮されています。

この「答えの蓄積」を、中小企業向けのプロダクトに最初から組み込む。機能を削ぎ落とした「軽いCRM」ではなく、思想を継承した「深いCRM」を、使いやすい形に翻訳する。

これが私たちの「逆張り」です。


CRM2.0(xRM)からEMOROCOへ——一本の思想の線

私が2007年にマイクロソフトでDynamics CRMの事業部設立に関わり、CRM2.0(xRM)を提唱してワールドワイドで表彰された。そのとき核心にあったのは一つのアイデアでした。

「CRMは顧客管理のシステムではなく、すべての関係管理の基盤になるべきだ」

xRM——eXtended Relationship Management。「Customer(顧客)」に限定された関係管理を、取引先・パートナー・代理店・スタッフ・行政機関——あらゆる「関係」の管理に拡張する。CRMはエンタープライズ全体の「思考の基盤」になる。

この発想は、当時の業界では相当に「先を走りすぎた」ものでした。多くの人に「CRMはSFAやMAのことでしょ」と言われ続けた。しかし私には確信がありました。「CRMは戦略であり、SFAやMAはそのサブシステムに過ぎない」——この本質は正しいと。

EMOROCO CRM Liteは、このxRMの発想を中小企業向けに実装したものです。「顧客管理だけのシステム」ではなく、「顧客・案件・取引先・パートナーとのあらゆる関係を、ノーコードで自分たちの業務に合わせて設計できるプラットフォーム」——これがEMOROCOの骨格です。


「収益逓増の法則」——なぜ中小企業こそSoIが必要か

Society 5.0——超スマート社会への移行は、「無形資産優位の社会」への移行でもあります。情報には「収益逓増の法則」が働きます——使えば使うほど価値が増大する。

顧客との関係データは、まさに収益逓増する資産です。一人の顧客のナラティブ・感情の変遷・価値観を記録するたびに、洞察の精度が上がります。精度が上がるほど提案の質が上がり、提案の質が上がるほど顧客満足度が増し、満足度が増すほど紹介が生まれる。

この「関係性資産の複利」は、大企業より中小企業の方が、一社一社の重みが大きいのです。大企業には1万社の顧客がいる。一社の離脱は0.01%の損失です。しかし中小企業には30社の顧客しかいない。一社の離脱は3%以上の損失になります。

だから中小企業こそ、顧客一社一社との「関係の深さ」を組織の仕組みとして管理しなければならない。そのためのSoI(洞察のシステム)が必要なのに、従来はエンタープライズにしかそのツールがなかった。EMOROCO CRM Liteはその空白を埋めるために作りました。

SoI市場はCAGR16.7〜24.2%という急成長を続けています。この成長の恩恵を、大企業だけでなく中小企業にも届けることが、私たちの使命です。


エンタープライズから中小企業へ——持ち込んだ「4つの設計思想」

具体的に言います。エンタープライズのCRMから中小企業向けのEMOROCOに何を持ち込んだのか。

①SoIアーキテクチャの民主化

大企業のCRMは「SoR(記録)→SoE(接点)→SoI(洞察)」という三層構造で設計されます。SoIは「データから洞察を生み出す」最上位の層で、エンタープライズでは数億円のBI・AI投資が必要でした。

EMOROCO CRM LiteはこのSoIの概念を、ダッシュボード×感情温度×ワークフロー自動化という組み合わせで月1,500円で実現しています。「今週フォローすべき顧客を自動でリストアップする」——これだけでも、立派なSoIです。

②疎結合アーキテクチャの採用

エンタープライズのシステム設計では「疎結合」——個々のシステムを独立させて、柔軟に連携させる設計——が基本原則です。密結合になると、一方のシステムを変更するたびに他方への影響が生まれ、変更コストが膨大になります。

EMOROCO CRM Liteは、Power AutomateやZapierなどのワークフローツールとの疎結合連携に対応する設計になっています。将来どんな外部システムとつなぎたくなっても、柔軟に対応できる。

③ノーコードによる「変更コストゼロ」

エンタープライズのCRMが「定着しない」最大の原因の一つは、業務が変わってもシステムが変えられないことです。フィールドを一つ追加するだけで数十万円・数週間かかる。現場の実態変化にシステムが追いつかない。

EMOROCO CRM Liteはすべてをノーコードで変更できます。今日気づいた「このフィールドが必要だ」を、今日設定できる。エンタープライズが解決できなかった「変更コストの問題」を、設計思想として根本から解決しました。

④セルフホストによるセキュリティ対応

大企業には「データを外部クラウドに出せない」というセキュリティポリシーがあります。金融機関・医療機関・官公庁関連の中小企業でも、同様の要件を持つ場合があります。

EMOROCO CRM LiteはAzure Container AppsによるSaaSクラウドに加えて、自社サーバーへのセルフホストにも対応しています。「クラウドに出せない」という理由でCRMを諦める必要がない。


「日本が世界一になれる領域」でやる

少し大きな話をさせてください。

私は「CRMは日本が世界で一番になれる領域だ」と本気で思っています。

なぜか。CRMの本質は「おもてなし」です。相手が言葉にする前に、何を必要としているかを感じ取り、先手で動く。それは日本人が文化として体に染み込ませてきた行動様式です。

日本の中小企業の経営者の多くは、感覚的に「おもてなし」ができています。しかしそれが「仕組み」になっていない。一人の優秀な担当者の頭の中にしかない。担当者が変わればゼロになる。

この「感覚としてのおもてなし」を「仕組みとしてのCRM4.0」に昇華させることで、日本の中小企業は世界に誇れる顧客関係の質を組織として持てるようになる。EMOROCO CRM Liteはそのための道具です。

Microsoft・Salesforceといった海外のCRMベンダーは、世界規模の機能を持っています。しかし「日本の中小企業の経営者が、顧客との関係の深さを組織の仕組みとして設計する」という文脈で最も深く考え、最も適切に設計されたCRMは、私たちが作るべきものだと思っています。

「世界で最もCRMを熟知した日本唯一の専門企業」——この肩書は、大言壮語ではありません。それだけの覚悟を持ってやっているということです。


「エンタープライズCRMの設計思想を、もっとシンプルに」の真意

EMOROCO CRM Liteのコンセプト「エンタープライズCRMの設計思想を、もっとシンプルに」は、「機能を削ぎ落とす」という意味ではありません。

「深さはそのままに、使いやすさを追求する」という意味です。

エンタープライズのCRMが持つ設計の深さ——感情の変化を可視化する・顧客の物語を蓄積する・組織の洞察を自動化する——これらの思想は、中小企業にも同等に必要です。ただ中小企業にはエンタープライズほどの人員・予算・専任IT部門がない。だから「使い方をシンプルに」する。

ノーコードで今日設定できる。接触後30秒で入力できる。専任IT部門なしで運用できる。月1,500円から始められる。補助金対象ツール登録済み(ツール番号:DL07-0022934)。

「思想は深く、使い方はシンプルに」——これがEMOROCO CRM Liteの存在意義です。

日産自動車や三菱重工業と同じ設計の思想で作られたCRMを、町の工務店が月1,500円で使える。私はこの事実を誇りに思っています。
EMOROCO CRM Lite 製品ページ


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この記事を書いた人
松原 晋啓

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アクセンチュア等でSE、アーキテクト、コンサルタント、インフラジスティックスでエバンジェリスト(Microsoft MVP for Dynamics CRM(現 Microsoft MVP for Business Solutions))、マイクロソフトでソリューションスペシャリスト(Dynamics CRM製品担当)を経て、現在はCRMを専門に扱うサービスチームを率いて大小様々の企業のCRM導入や事業立上げを支援、その傍らでCRMエバンジェリストとしてイベントや記事寄稿を通じて"真の"CRMの理念の普及に努めている。
アクセンチュアでCRMを学び、マイクロソフトでCRM2.0(プラットフォームドCRM)を世界的に提唱したCRMの正統後継者にして現役最長のCRM専門家(CRM診断士/CRMドクター)
その後もCRM3.0(パーソナライズドCRM)、CRM4.0(クリエイティブCRM)を提唱するCRMの第一人者としてインタビューを受けたり、国内外で多くの賞を受賞している。
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