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知識創造研究室 by CRM(xRM)

【DXとCRM連載 第1回】DXの「三層構造」を知らずしてCRMを語るな — SoR・SoE・SoIが変える経営の設計思想

こんにちは、CRMエバンジェリストの松原です。

「DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しなければならない」

この言葉を経営者の9割が口にします。しかし「何を・どの順番で・どんな目的で」デジタル化するかを体系的に語れる経営者は、ほとんどいません。

その理由はシンプルです。DXの「設計図」を持っていないからです。

家を建てるとき、設計図なしに壁や窓を並べていけば、出来上がるのはバラバラな部屋の集まりです。企業のITシステムも同じです。「便利そうだからこのソフトを入れた」「別の会社が使っているからこのツールを導入した」という積み重ねが続くと、互いに連携しないシステムが乱立し、データは分断され、DXはいつまでも「スローガン」にとどまります。

「SoR・SoE・SoI」という三つの概念は、この設計図の骨格です。
そしてこの三層構造の中でCRMが担う役割を理解することが、CRM4.0(クリエイティブCRM)の本質を理解する最初の鍵になります。


「DXは業務改善ではない」——日米格差が示す本質

DXの本質を議論する前に、まず現実を直視する必要があります。

米企業は、製品・サービスそのものを文字どおり「トランスフォーム(一変)」させることを"DX"の狙いとしているのに対し、多くの日系企業の目指すものは「デジタイゼーション(業務のIT化)」もしくは「デジタライゼーション(業務プロセスの効率化)」の範疇に留まっています。

米国では「イノベーション(変革)」に関わる成果を認識している企業が70%以上存在しているのに対し、日本では40%未満——この数字が示すのは、デジタル投資の額の差ではなく、「デジタルで何を実現しようとしているか」という思想の差です。

日本のIT予算のうち、「守りのIT投資(既存業務の維持・効率化)」が依然として大半を占めており、「攻めのIT投資(新しい顧客価値の創出)」への転換が進んでいません。

この差を埋める思想的な地図が「SoR・SoE・SoI」の三層構造です。


SoR・SoE・SoIとは何か——三層それぞれの役割

SoR(System of Record)——「記録のシステム」

業務に関する様々なデータを記録するためのシステムです。経理情報を記録する会計システムや、受発注に関するデータを記録するシステム(ERPシステム)が該当します。正確なデータを長期的に保存する目的で設計されており、静的なデータ構造が特徴です。

最重視されること: データを長期間、正確に保存する「完全性」

代表例: ERP(基幹業務)・会計システム・人事システム・在庫管理・販売管理システム

設計の哲学: 1円のズレも許されない。止まってはいけない。データは消えてはいけない。——高信頼性・高可用性・完全性が至上命題です。

従来のIT部門が主に担当してきた領域がこのSoRです。しかし重要なのは、SoRが「起きたことの記録」にとどまり、「これから何をすべきか」を示す力を持っていないという点です。


SoE(System of Engagement)——「顧客接点のシステム」

企業と顧客の結びつきを改善し、関係性を強化するために設計されたシステムです。顧客行動や属性に合わせて最適施策を行うためのCRMサブシステムや、購買履歴に応じて推奨商品を表示するレコメンドシステムが該当し、DXにおいて最も重要視されます。

最重視されること: 顧客の要望に対応する「柔軟性・多様性」

代表例: ECサイト・スマートフォンアプリ・SNS・MA(マーケティングオートメーション)・コンタクトセンター・POS

設計の哲学: 変化に適応できる「柔軟性」と「迅速さ」が優先事項です。顧客ニーズは日々変わるため、求められる機能や達成すべきビジネス目標が時間とともに変化することを前提に設計されます。

DXで「新しい顧客体験を作る」「顧客との新しい接点を開く」といったときに中心になるのがこのSoEです。

重要な現実: 既存のIT部門を単に拡充・転用するだけでは、SoEを構築しDX推進部門とすることは困難です。SoRとSoEは概念そのものが異なり、SoRの専門家がそのままSoEを担えるわけではありません。


SoI(System of Insight)——「洞察・知見のシステム」

データを分析し、ビジネスに有益な知見を導出するシステムです。そして、ここが最も重要なポイントです——SoIを唯一担える業務システムはCRMだけです

経営資源に関するデータを一元管理し、顧客情報や売上データを分析し、効果的な施策を提案するCRMシステムが唯一該当します。

最重視されること: 多量のデータを高速で分析する「処理速度」と「知見の深さ」

SoIの担う役割: PDCAサイクルにおいて、SoIは「施策立案(Plan)」と「分析・評価(Check)」と「改善策の検討(Act)」を担います。SoEが「顧客に実行(Do)」し、SoRが「得られたデータを蓄積」する——この三つが揃って初めてDXのサイクルが回ります。


「繋ぐ力」——なぜSoIが最重要なのか

三層構造の中で、なぜSoIが最も重要なのか。

SoRとSoEは、互いに「直接話すことができない」という構造的な問題を抱えています。

SoRは「過去の事実の記録」。SoEは「顧客との現在の接点」。この二つのシステムが分断されたまま存在していても、「過去のデータから顧客が次に何を必要とするか」という洞察は生まれません。

SoIはSoRとSoEの間に立ち、両者のデータを統合・分析して「次の行動のための知見」を生み出す橋渡し役です。

単にデジタル技術で業務を効率化するだけではDXとは言えません。ビジネスモデルそのものを大きく変化させ、競合他社から抜きんでてこそDXです。そのため、DXにおいてデータの活用——すなわちSoIは最も重要なファクターです。

そして、このSoIを唯一担える業務システムがCRMである——これが本連載の核心的な主張です。


三層構造とSoIの市場的な現実

SoI市場は2019年からCAGR16.7〜24.2%で成長しており、最大130億ドルまでの拡大が予測されています。「データから示唆を引き出す」能力に対する企業の需要が急速に高まっていることを、この数字は示しています。

一方で、多くの企業がSoIを「導入した」と思っていながら、実際には「データを見るだけ」になっています。

データを持っていることと、データから洞察を引き出すことは、まったく別の問題です。

次回の連載第2回では、「なぜCRMだけがSoIを担えるのか」という問いに、CRMの発展の歴史を辿りながら答えます。そしてCRM1.0から4.0へと進化するその過程で、SoIとしての役割がどのように深化してきたかを解説します。


まとめ——三層構造の要点

システム 役割 重視事項 代表例
SoR(記録) 業務データを正確に蓄積・保存 完全性・長期保存 ERP・会計・人事システム
SoE(接点) 顧客との関係・体験を設計 柔軟性・多様性 EC・SNS・MA・CTI
SoI(洞察) データを知見に変え次の行動を生む 処理速度・洞察の深さ CRM(唯一)

SoIがDXにおいて最重要な理由: SoRの「過去の記録」とSoEの「顧客との接点」を橋渡しし、「次に何をすべきか」という洞察を生み出す唯一の層。この洞察なしに、DXは「デジタル化した業務改善」の域を超えられない。

次回予告: 【DXとCRM連載 第2回】なぜCRMだけがSoIを担えるのか——CRM1.0から4.0への進化と「洞察の深化」


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この記事を書いた人
松原 晋啓

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アクセンチュア等でSE、アーキテクト、コンサルタント、インフラジスティックスでエバンジェリスト(Microsoft MVP for Dynamics CRM(現 Microsoft MVP for Business Solutions))、マイクロソフトでソリューションスペシャリスト(Dynamics CRM製品担当)を経て、現在はCRMを専門に扱うサービスチームを率いて大小様々の企業のCRM導入や事業立上げを支援、その傍らでCRMエバンジェリストとしてイベントや記事寄稿を通じて"真の"CRMの理念の普及に努めている。
アクセンチュアでCRMを学び、マイクロソフトでCRM2.0(プラットフォームドCRM)を世界的に提唱したCRMの正統後継者にして現役最長のCRM専門家(CRM診断士/CRMドクター)
その後もCRM3.0(パーソナライズドCRM)、CRM4.0(クリエイティブCRM)を提唱するCRMの第一人者としてインタビューを受けたり、国内外で多くの賞を受賞している。
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