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知識創造研究室 by CRM(xRM)

ホロスティック分析とCRM4.0 — 「全体としての顧客」を理解することが、最も深い関係を生む理由

こんにちは、CRMエバンジェリストの松原です。

「あの担当者は、私の会社のことだけでなく、私自身のことを理解してくれている」

この感覚を持つ顧客は、その担当者が去っても「あの会社」に付き合い続けます。なぜなら、その関係が「取引」ではなく「人生の一部」になっているからです。

アーカスジャパンが提唱するCRM4.0の6つのキーファクターの最後が「ホロスティック分析——健康・生活・思想・社会関係などを含めた全体最適」です。

「ホロスティック(Holistic)」とは「全体論的」という意味です。部分を積み上げて全体を理解しようとするのではなく、「人間を全体として、統合された存在として理解する」という哲学的なアプローチです。


なぜ「部分の理解」では顧客は動かないのか

CRM3.0までの顧客理解は「部分の積み上げ」でした。

【部分的な顧客理解(CRM3.0まで)】

購買データ:いつ・何を・いくらで買ったか
行動データ:何を検索したか・どのページを見たか
属性データ:年齢・性別・地域・業種・売上規模

→ これらを積み上げて「この顧客像」を描く
→ しかし「なぜその顧客はそう行動するのか」という動機が見えない

部分の積み上げでは見えないものがあります。それは「人間としての全体性」——健康状態・家庭の状況・社会的な立場・個人的な価値観・思想・人生の文脈——が、購買行動や意思決定の背後で動いているという現実です。


ホロスティック分析の「5つの次元」

CRM4.0のホロスティック分析が把握しようとする「全体としての顧客」は、5つの次元から成ります。

次元① 身体的次元(健康・体力)

「社長が最近、健康診断で引っかかって養生中」「担当者が育休から復帰したばかりで業務量を調整している」——これらは「仕事の文脈」の外にあるように見えて、実は意思決定のスピード・会える時間・精神的な余裕に直結します。

相手の健康状態への配慮が「この人は自分のことを人間として見てくれている」という感覚を生みます。

次元② 精神的次元(感情・ストレス・マインドセット)

「今期の業績プレッシャーで精神的に追い詰められている」「新しいプロジェクトへの期待で高揚している」——精神的な状態は、提案の受け取り方・返答のスピード・リスクへの感度を決定的に変えます。

ホロスティック分析では、「今この人の精神的な状態はどうか」を把握した上で接触のトーン・タイミング・内容を設計します。

次元③ 社会的次元(人間関係・立場・コミュニティ)

「社内で新しいポジションに就いて、立場が変わった」「業界団体の会長を引き受けて社会的な責任が増した」「信頼していた部下が退職して孤独感がある」——社会的な文脈が人間の意思決定を大きく左右します。

「最近、立場が変わられたと伺いました。新しい役割でお力になれることがあれば」という接触が、社会的次元への配慮の実践です。

次元④ 思想・価値観的次元(信念・哲学・倫理観)

「環境問題に強い関心があり、サステナブルな選択を重視する」「家族よりも仕事を優先することへの葛藤を抱えている」「業界の変化に抗って伝統を守りたいという信念がある」——思想・価値観の次元は、提案のフレーミングとの「共鳴/反発」を決めます。

価値観と相反する提案は、いくら論理的でも受け入れられません。価値観に共鳴する提案は、データが完全でなくても動かします。

次元⑤ 時間的次元(ライフステージ・将来計画)

「来年、子どもが大学に入る」「3年後に会社を売却することを考えている」「10年後に後継者に引き継いで自分は引退したい」——人間の意思決定は、「今」だけでなく「過去からの文脈」と「将来への展望」の中に位置づけられています。

「10年後に引退を考えていらっしゃるとのこと。そのためにも、今のうちに仕組みを作っておくことが重要ですね」——この一言が「私の人生計画を理解した提案だ」という深い共鳴を生みます。


ホロスティック分析とCRM4.0の接続

ホロスティック分析がCRM4.0において重要な理由は、ICX(インプリシットカスタマーエクスペリエンス)——言語化されない顧客体験——の最深部がまさにこの「全体としての人間」の次元にあるからです。

購買データ・行動データで把握できるのは「顧客の行動の表面」です。ホロスティックな5つの次元を理解することで初めて、「なぜその行動が生まれたのか」という動機の根源に触れられます。


EMOROCO CRM Liteで「ホロスティックな顧客理解」を記録する

ホロスティック分析は「大量のデータを収集する」アプローチではありません。「顧客との対話の中で聞こえてきた全体的な文脈を、丁寧に記録する」という人間的なアプローチです。

【ホロスティックフィールドの設計】

身体的・精神的次元(状態の記録):
・「最近の体調・状況メモ」(一行テキスト)
  例「育休から復帰したばかりで業務量を調整中。連絡はシンプルに」
  例「健康診断で引っかかって、少し元気がない様子」

社会的次元(立場・関係の記録):
・「最近の社会的な変化」(テキスト)
  例「業界団体の役職に就いた。業界全体への関心が高まっている」
  例「信頼していた役員が退職した。内部的な変化がありそう」

思想・価値観的次元:
・「強い信念・こだわり・タブー」(テキスト)
  例「環境への配慮を最重要視。環境に無関係な提案は通りにくい」
  例「創業家の意向を最優先する文化。数字より義理を重視」

時間的次元(将来計画の記録):
・「顧客の将来計画・重要イベント」(テキスト)
  例「3年後に息子への事業承継を計画中。今は安定を最優先」
  例「5年後に事業規模を縮小して海外移住を考えている」

ホロスティック理解度(選択式):
  表面的な取引情報のみ / 仕事の文脈を把握 / 
  個人的な文脈を把握 / 人生全体の文脈を把握

「ホロスティック理解度」フィールドは、CRM4.0的な関係の深さを測る「深度計」として機能します。

「表面的な取引情報のみ」の顧客は、機能的な提案しか届きません。「人生全体の文脈を把握」している顧客には、存在意義の次元での共創が可能になります。


まとめ——「全体としての顧客理解」が「代替不可能な関係」を生む

理解の次元 把握できること 生まれる関係
取引・行動データ(部分) 何を買ったか・何をしたか 機能的な取引関係
感情・ICX(CRM3.0→4.0) なぜそう感じるのか 感情的な信頼関係
ホロスティック(CRM4.0) なぜ生きているのか・何が全体を動かすのか 人生の共創パートナー関係

「ホロスティックに理解された顧客は去らない」——なぜなら、「この会社は私を人間として理解している」という感覚を持つ顧客は、競合他社との比較を超えた次元で付き合い続けるからです。

EMOROCO CRM Liteで「全体としての顧客」を記録し始めることが、CRM4.0の最深部への入り口です。
EMOROCO CRM Lite 製品ページ


関連記事:[ICX(インプリシットカスタマーエクスペリエンス)とは何か——言語化されない顧客体験をCRM4.0とEMOROCO CRM Liteで設計する方法]

関連記事:[「企業心理学」としてのCRM4.0——顧客の深層心理に共鳴するとはどういうことか]

関連記事:[Society 5.0とCRM4.0——超スマート社会・人間中心社会において顧客との関係はどう変わるか]

この記事を書いた人
松原 晋啓

詳細プロフィールはこちら
アクセンチュア等でSE、アーキテクト、コンサルタント、インフラジスティックスでエバンジェリスト(Microsoft MVP for Dynamics CRM(現 Microsoft MVP for Business Solutions))、マイクロソフトでソリューションスペシャリスト(Dynamics CRM製品担当)を経て、現在はCRMを専門に扱うサービスチームを率いて大小様々の企業のCRM導入や事業立上げを支援、その傍らでCRMエバンジェリストとしてイベントや記事寄稿を通じて"真の"CRMの理念の普及に努めている。
アクセンチュアでCRMを学び、マイクロソフトでCRM2.0(プラットフォームドCRM)を世界的に提唱したCRMの正統後継者にして現役最長のCRM専門家(CRM診断士/CRMドクター)
その後もCRM3.0(パーソナライズドCRM)、CRM4.0(クリエイティブCRM)を提唱するCRMの第一人者としてインタビューを受けたり、国内外で多くの賞を受賞している。
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